なぎさ海道

大阪湾・播磨灘・紀伊水道 人と海がふれあう空間

特集

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vol.6
2016.6.30



テナガテッポウエビの掘った巣穴に共生しているモヨウハゼ。外敵が近づくと見張り役のハゼがエビに合図して両者が巣穴に逃げ込むので、アナゴはそれを追って穴に頭を突っ込むと、両方にありつくことができる。




アナゴより獰猛なハモ。口の先にある大きな牙(犬歯)でエサに噛みつく。サメの鋸歯と同じ形をした大きな歯が上あご中央に縦一列に並び、捕えた獲物を簡単に食いちぎる。


関西の味アナゴ&ハモ
大阪湾にすむ底物の代表といえばアナゴとハモ。

マアナゴは大阪から真南に2000km、台湾の遥か東の海域で生まれ、早春に透明なヤナギの葉のような姿(仔魚)で来遊します8cm位の稚アナゴに変態すると、ゴカイや小さな甲殻類などを食べて、徐々に小魚やエビなどへとエサのバリエーションを広げ、その年の暮れには28cm位にまで成長します。大きくなればなるほど脂分が増えておいしくなります。旬は5~6月頃。

アナゴは尾から海底の砂や泥に潜り、昼間は姿を見せません。夕方になると砂泥から躍り出てエサを探します。マアナゴの好物はハゼやエビです。かつて、大阪湾の湾奥沖から中部にかけての海底には、テナガテッポウエビの巣穴が無数にありました。おかげで、丸々と太ったマアナゴがたくさん捕れていたのです。ところが最近の大阪湾は水質浄化の影響で、栄養塩が減少し、プランクトンが減り、自ずとハゼやエビなどの海底生物も減ったことにより、マアナゴは、必死でエサを探し回らねばならず、身が締まって痩せています。海水温上昇の影響と相まってマアナゴの漁獲高は、激減の一途をたどっているというのが実情です。

一方、ハモの漁獲高は増えています。ハモは暖海性の魚で、冬は外海の沿岸にすみ、大阪湾には春~夏に産卵やエサを求めて来遊し、多くは晩秋に外海へともどります。夏の魚で知られていますが、産卵を終えて活発にエサを獲り、脂が乗って味にコクが出る秋~冬も旬といわれます。 ハモは沿岸の水深100m 以浅の砂泥底にすみ、夏は浅場で活動します。肉食性で夜にエサを探すため目が大きく、若い魚は小魚、エビ、カニなどを食べ、大きくなるとイカやタコ、時にはアナゴさえも捕食してしまいます。

茅渟(ちぬ)といえばクロダイ

岸壁などでムラサキガイ(ムール貝)をついばむクロダイの姿がよく見られる。

クロダイは関西ではチヌと呼ばれ、大阪湾(ちぬの海)になくてはならない魚です。
鯛の仲間ですが、生態も食性もマダイとは異なり、魚の風味にも違いがあります。

水深50mほどの岩礁、砂浜、防波堤、河口域などにすみ、釣り人に人気の魚です。稚魚は体長8mmになると海岸の波打ち際や干潟、河口域に集まり、動物プランクトンを食べ、1 年で18cm、5 年で40cm、最大で70cmになります。大きな胸ビレを使って護岸の壁面にピタリと静止し、突き出した口で付着したムラサキガイ(ムール貝)などを食べます。雑食性で、稚魚や若魚はアオノリなどを飽食し、大きくなると港湾内ではイガイ類やイソガニ類、カンザシゴカイ類などを、岩礁域ではエビやカニ、貝類、小魚、海藻などを食べます。
肉食性のマダイ(Vol.3参照)との食性の違いが、魚自身の風味にも影響しています。

海の食物連鎖を支えるカタクチイワシ

口を開けて泳ぐことでケンミジンコなどの動物プランクトンを捕食するカタクチイワシ。下あごが下方に大きく開き、動物プランクトンを鰓の内側にある鰓耙(さいは)を網のように使って濾しとって食べる。

大阪湾の水は栄養分が多く、たくさんの植物・動物プランクトンが発生します。
それで、これらをエサとするカタクチイワシ、アジ、マイワシ、イカナゴ、コノシロなどの浮魚がたくさん育ちます。平成25年の大阪府の魚種別漁獲比(Vol.2参照)では、ダントツトップがカタクチイワシとシラスで、アジ、マイワシ、イカナゴと浮魚種が続きます。

では、トップのカタクチイワシの捕食についてお話しましょう。
カタクチイワシは図のように、口を開けたまま泳ぎ、口の中にあるネットのような鰓耙(さいは)に、エサがある程度溜まったら口を閉め、胃の中に送るという仕組みです。カタクチイワシは、赤潮が頻発する湾奥域にエサを求めて集中します。赤潮とは、植物プランクトンが大増殖することによって海水の色が変わる現象で、赤潮は生き物が死んでしまう青潮を招く原因にもなり、良いイメージは持たれませんが、青潮(*)を招いていない状態であれば、エサが豊富で浮魚が集まる海なのです。

カタクチイワシは、私たち人間にとって大切な食材ですが、サワラ、タチウオなど肉食魚の栄養源であり、アジサシ、カモメなどの鳥類、イルカやクジラ、イカなどのエサでもあります。つまり、海の食物連鎖を支える重要な魚なのです。カタクチイワシは表層を泳ぐため、空から襲う鳥の目をくらますため背が青黒く、下から襲う肉食魚から見えにくいように、体側から腹が銀白色になっています。また、大群をなすことで捕食者から身を守ります(冒頭写真)。

*青潮とは、海底の細菌が有機物を分解する時に酸素を消費し、海底くぼ地や停滞域の酸素が欠乏し、さらに無酸素下で細菌が有機物を分解して硫化水素が発生した水が浮上することで、海水が青く変色することから「青潮」と呼ばれます。これにより、生物が全滅することで恐れられています。


※本号に掲載しているイラスト図版は、大阪府立環境農林水産総合研究所 鍋島靖信氏に作成いただきました。