なぎさ海道

大阪湾・播磨灘・紀伊水道 人と海がふれあう空間

特集

バックナンバーを見る 

vol.6
2016.06.30
新しい大阪湾づくり

大阪湾の魚は何を食べて美味しくなる?

第6回 水産技術センター研究員に聞く“魚の食生活”


取材・文/牟田 由喜子

大きな魚たちの餌食にはなるまいと、大群をなして身を守るカタクチイワシ。

大阪湾の魚がおいしいって???
そんな疑問の声が聞こえてきそうですが、
大阪湾はエサに恵まれ、おいしい魚がたくさん育つ漁場。
捨てたもんじゃないんです。
とはいえ、昔に比べると捕れる魚種や、魚の旬が変わってきているのも事実。
長年にわたり、大阪湾の環境と生物の関係を研究してきた
海の生き物博士、鍋島靖信(大阪府立環境農林水産総合研究所研究員)さんに
大阪湾の環境と魚の食性の関わりについて伺いました。
大阪湾は栄養たっぷり

大阪湾で捕れる魚とエサの分布イメージ

海がたくさんの生き物を育み、豊かな漁場であるためには、
エサの源となる植物プランクトンの存在が鍵となります。
大阪湾には、淀川、大和川などの大きな河川から、
植物プランクトンの発生に必要な栄養塩がたっぷり流れ込みます。
湾の入り口(紀伊水道)には、外海からのきれいな水が多様な魚種の稚魚を運んできます。
その恩恵を受けている大阪湾は、
湾奥には、イワシやそのシラス、マアジ、コノシロなどが群れをなし、
イカナゴ、クロダイ、タチウオ、サワラ、アナゴ、ハモ、タコなどが多くすんでいます。
湾南部は魚の量は多くありませんが、豊富な魚種がすんでいます。

ところが最近、「大阪湾をもっときれいに!」という人々の思いの高まりから、
海に流す河川の水質基準のハードルが高くなり、
植物プランクトンの発生に必要な栄養塩が海に届かなくなり、
イワシの漁獲も減少傾向という、漁師さんからの声も聞こえてきます。

大阪湾に限らず東京湾、伊勢湾でも、大都市に隣接した内湾が抱える問題は、ほぼ同様です。
ただ、大阪湾の利点を挙げると、湾の南北に友ヶ島海峡と明石海峡という海水の出入り口があるため、
海水交換が円滑で、酸素濃度が比較的保たれやすい漁場であるということです。


深刻なのは海水温の上昇

大阪湾といえばアナゴというほど、1995年頃まではマアナゴの漁獲が豊富でした。ところが近年は、当時の漁獲量の1割程度にまで減少しています。一方、2000年代に入り、ハモの漁獲が増えてきました。その最も有力な要因と考えられているのが、海水温の上昇です。 アナゴとハモは、好む海の温度が若干異なり、アナゴは、ハモよりもやや水温の低い海を好むため、昨今の海水温の上昇に適応しづらくなったと考えられます。

暖冬年は、夏になると湾内に入り、秋の終わりに外洋に出ていたタチウオなども、冬になっても湾内に留まります。これもエサとなるカタクチイワシやアジ類が、海水温が高いために外洋で越冬することなく湾内に留まっているからです。

先ほど、海水交換(水の動き)と酸素濃度の話をしましたが、酸素濃度と海水温が、生き物の生存に密接な影響をおよぼします。 海の生き物は、海水に含まれている酸素を取り入れて生きています。海水温が上がるほど、多くの代謝エネルギーを使うため、さらに多くの酸素を必要とするのです。つまり、酸素濃度の低い海で何とか生き延びていた生物にとって、仮に1℃でも海水温が上昇すると生存が厳しくなるということです。

私たちは漁獲量の減少や生息魚種の変化の要因を「水質悪化」の影響と考えがちですが、むしろ、直接要因は「海水温上昇」にあるといえそうです。




表層水の水温の変化(年平均値)
出典:http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/zukan/station/osaka/kaisui/faq/kankyou.html

海の中の連鎖ドラマ

大阪湾の魚とエサの関係

海の中の連鎖ドラマ「食う」「食われる」には、どんな魚たちが登場するのでしょうか
浮魚(うきうお)編と底魚(そこうお)編、2パターンでお話します。

★浮魚編
海の表層に浮遊するプランクトンをエサにして泳ぎまわる
イワシ・アジ・サバ・コノシロなどの魚を「浮魚(うきうお)」と呼びます。
プランクトンは「漂って生きる者」の総称で、珪藻類などの植物プランクトンとケンミジンコ類などの動物プランクトンに大別されます。孵化して間もない魚やクラゲ、貝、タコなどの幼生も水に流されて漂っている間はプランクトンと位置づけられます。
浮魚のエサになるのは主に動物プランクトンです。
そして、浮魚の群れを狙ってやってくるのが、鮮魚店にも並ぶサワラやタチウオなどの肉食魚です。
【植物プランクトン】→【動物プランクトン】→【イワシなど(浮魚)】→【サワラやタチウオなど(肉食魚)】

★底魚編
海の底で生活しているアナゴ、マコガレイ、タイなどの魚を「底魚(そこうお)」と呼びます。
彼らは、海底や干潟にすむゴカイ、エビ、貝などの底生生物(ベントス)をエサにしています。
さらに、これらの底魚も食べてしまう獰猛な肉食魚がハモやヒラメです。
ベントスのエサは、海の底に降り注ぐプランクトンや生物の死骸や、これらを分解する生物たちです。
ですから、底魚編でも最初に登場するのはプランクトンというわけです。
【プランクトンや生物死骸】→【ゴカイや貝、甲殻類(ベントス)】→【アナゴ、マコガレイ、タイなど(底物)】→【ハモ、ヒラメなど(肉食魚)】

大阪湾は、埋め立てなどの影響で、魚たちの産卵や子育てに必要な浅瀬や干潟が減っています。
底魚のエサとなるベントスの生息にも関わる問題で、この状況は、東京湾や伊勢湾の環境に比べても深刻です。


次ページへ
大阪湾にすむマアナゴ、ハモ、クロダイ、カタクチイワシの食性のお話です。