なぎさ海道

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特集

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vol.1
2014.08.19
新しい大阪湾づくり

われらの“里海”大阪湾の今を知ろう

第1回「海の健康診断」


取材・文/牟田 由喜子

安治川の河口付近から望む大阪湾。この数十年間湾内には、関西国際空港、神戸空港、夢洲などの埋立地が増えている。                                (画像提供)ホテル大阪ベイタワー


大阪湾は、東京湾や伊勢湾などとともに日本を代表する閉鎖性内湾の一つです。南は紀淡海峡を通じて太平洋と、西は明石海峡を通じて播磨灘とつながっています。湾奥には、琵琶湖を水源とする淀川と、奈良盆地をおもな集水域とする大和川の2大河川が流れ込み、栄養が豊かで、昔からさまざまな生き物を育んできました。

漁業が盛んで、人々に多くの海の幸を提供してきた大阪湾ですが、一方で海岸の埋め立て、排水の流入など、人間の活動によるさまざまな影響を受け、その環境や生き物の暮らしぶりは昔とは随分変わってきています。

なぎさ海道は、読者のみなさんとともに、これからの大阪ベイエリアの環境や魅力を考えていきたいという思いを込めて、新特集「新しい大阪湾づくり」をお送りします。

第1回は、「海の健康診断」と題し、大阪湾の環境を専門に研究されている中西敬先生(近畿大学水産学科非常勤講師)に、大阪湾の環境状態を「おとうさんの健康状態」に例えてお話しいただきます。


大阪湾は、実はメタボ!!
環境悪化の原因は?
大阪湾の環境の現状をおとうさんの健康状態に例えると、複数の生活習慣病を併発している、つまり、メタボリックシンドローム(メタボ)の状態です。

「環境悪化の原因は産業排水だ」と考える人も多いかもしれません。しかし、国や各自治体が定めている排水基準は非常に厳しく、工場などからの産業排水はかなりきれいになってきています。むしろ、環境悪化の原因は、私たち市民の生活による影響の方が大きいといえるでしょう。

まさに生活習慣病ですね。これは、大阪湾に限ったことではなく、東京、名古屋などの大都市を抱えた東京湾や伊勢湾などの現状も同様です。その病状と原因を一つずつ探ってみましょう。



肺や腎臓、肝臓が弱っている
つまり、浅瀬や干潟が少ない!
大阪湾は、もともと地形的に水深が深いことに加えて、貴重な浅瀬や干潟がどんどん埋め立てられてしまいました。現在、水深5m以下の水域は、全体の水域面積に対してわずか1%。東京湾(16%)、伊勢湾(3%)と比べても少ないことがわかります。

では、浅瀬や干潟が少なくなると、海の環境にどのような影響があるのでしょう。

干潟とは、浅瀬の海岸で潮が引くと現れる砂地や泥地のことで、たくさんの空気(酸素)が海水に取り込まれるところです。

干潟の砂や泥の多くは川から運ばれてきたものですが、川からは栄養塩(えいようえん)や有機物も流れ込んできます。有機物は海水をかぶると砂や泥とともに干潟に沈降し、堆積します。貝やカニ、ゴカイなどの底生生物が堆積物を食べ物として取り込んで水質を浄化します。これらの生き物は鳥や魚に食べられたり、漁業者によって獲られます。こうして海の中の有機物は外へ運び出されることになるのです。干潟は、生き物たちが織り成す食物連鎖によって海水をきれいにする力が自然に働く場所なのです。

浅瀬や干潟は、人間の体でいうと空気を取り込む肺や、養分を蓄えたり不要なものを取り除いたりする腎臓、肝臓の働きに例えることができるでしょう。つまり、浅瀬や干潟が少ない海は、肺や腎臓、肝臓の機能が弱っているといえるのです。


食べ過ぎですよ!
栄養分が大量に流れ込んでいる
私たちは、日々どのような食事をしているでしょう? 店先には、地域で生産された食材に限らず、日本中、世界中から運ばれてきた食材が並んでいます。私たちは、それらを自由に選び、体内に取り込み、栄養たっぷりの排泄物を下水に流しているわけです。

では、その家庭から流される下水は、どの程度浄化された状態で、海に流されているのかご存知ですか?

大ざっぱにいうと、流した下水は飲み水同様に浄化されるわけではなく、流される窒素(1人1日10~14g排出)やりんなど(栄養塩)の半分くらいが残った状態で海に流されているのです。

というわけで、大阪湾の現状は、栄養塩たっぷりの「食べ過ぎ状態」であるといえるのです。



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